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No. 81~国葬(国葬儀)の憲法的問題点について~ |大分県中津市弁護士中山知康

1.またもや久しぶりのブログ更新となってしまいました。
  さて、今回は、今、話題の「国葬(国葬儀)の憲法的問題点」について、 若干お話ししたいと思います。
  もっとも、憲法学者からも既に反対の声明が出されていますので、私がここでお話しするのは、単に私の雑感と捉えていただければと思います。

2 安倍氏の国葬をめぐっては、各方面から色々な問題が指摘され、まさに国論を二分する状況です(といっても、反対の意見の方が、圧倒的に多いように感じますが・・・)。
  確かに、国王とか天皇でもない人物について「国葬」が妥当なのか、「国葬」に値する実績や功績があると言えるのか(安倍氏の功罪についてはまだ定まっておらず、これから学術的・歴史学的検証の対象とされるべき問題です。)、さらには、多くの被害者を生んだ旧統一協会との密接なつながり、などなどたくさんの問題があります。
  本稿では、それらとは別の問題、つまり、純粋に憲法的観点から、問題点を列挙します。

3 問題点の一つ目は、安倍氏の国葬に関する決定は、内閣の独断であるため、憲法が付与した権限の逸脱・濫用に当たるという点です。
  憲法は、統治機構として、国会、内閣、裁判所の各項目
を設け、それぞれに一定の権限を付与しています。
  ここで、一定の権限というのは、その言葉どおり、限られた権力という意味です(「権」とは力のことであり、その力が「限」というのは、限られた権力が与えられているということです。)。
  要するに、国会にも内閣にも裁判所にも、国が営むべき作用を遂行するための国家権力のうち、それぞれ一定の権力が付与されているところ、その権力はもともと限定されていて、その限定された権力を、定められたルールの下でのみ行使できるものとされているのです。

そして、国家機関のうち、国権(国家権力)の最高機関は、内閣ではなく、国会と定められています。他方で、内閣は国会で定められたことの執行機関(行政とは執行のことです。)に過ぎず、裁判所も法の適用という執行機関であり、また、国会や内閣の誤りを監視し、是正する権限を与えられています。
この理屈は、例えば、会社などに置き換えて考えれば、いわば当然のこととして、わかりやすいと思います。会社では、最高の意思決定機関は株主総会です。取締役会などの執行機関は、株主総会で決められた方針に沿って、日常の会社業務を執行する権限を与えられているのであり(いちいち細かいことまで株主総会では決めないとしても、それらは、株主総会から取締役会に委任されているのです。)、会社にとって重要な事柄は、基本的に株主総会で審議されなければなりません。そして、会社の業務の適正さは、監査役が監視します(会計監査だけでなく、業務監査)。このように、会社では、株主総会に諮ることなく、取締役会が会社の重要事項を勝手に決めることはもともとできません。
  国については、当然ながら、もっと厳格に憲法で定められており、内閣は国会で決められたことを執行する機関であって、憲法や法律が定めておらず、国会でも決められていないことを、勝手に独断で決定することなど、もともとできないのです。

  ですから、今回の内閣による「国葬」決定は、内閣の権限を逸脱するものであり、権限の濫用にもあたります。
このままでは、内閣による「独裁」を認めたことにもなりかねないのです。

4 問題の点の二つ目は、平等原則違反です。
  いうまでもなく、国民は(もっと言えば、外国籍の方も)、法の下に平等です。
  憲法上、自然人の中で法の下の平等の例外とされているのは、「天皇」だけです。憲法上、天皇は、いわば「国民」に対置する概念として、国民とは分けて定められています。それゆえ、天皇には、国民全員(さらに言えば外国籍の人も含みます。)に保障される人権規定も、当然には適用されず、他方で、形式的・儀礼的行為に限られ、かつ、内閣の助言と承認の下でしか行えませんが、国事行為という国家権力を行使することが定められています。
  そのような特殊な地位を憲法が定めているため、天皇は法の下の平等の例外なのですが、こうした例外は憲法上、天皇だけであり、他の自然人について、国民一般と異なる取り扱いをすることはやはり差別であり、平等原則違反というべきです。

5 問題点の三つめは、思想・良心の自由を侵すという点です。
  現在、内閣総理大臣は、安倍氏の国葬は国全体として弔意を表するものと釈明していますが、仮に、個々人に黙祷まで要請するものではないとしても、国を挙げて弔意を表するという場合、安倍氏に弔意を表したくない人にも税負担をさせ、かつ、弔意を事実上強要することになります。
  ですから、思想・良心の自由の侵害というべきです。

6 問題点の四つ目は、財政民主主義にも反するという点です。
  国が税金を使用して国家作用を営むためには、国会で審査しなければなりません。

  このことは、税金を国民から徴収する場面で、国会で審議して法律を定めなければならないこととパラレルです。  徴収する場面でも、使う場面でも、国のお金の問題は、国会で決めなければならないのです。
  ところが、今回、安倍氏の国葬は、国会審議を経ずに、予備費から16億6000万円も使って行うというのです。
  しかし、予備費というのは、国会で審議していては間に合わない場合のための緊急的に使えるお金のことです。
  それゆえ、予備費をあまりに多く確保しておくとすれば、そのこと自体が、もともと財政民主主義に反するともいえるのですが、いずれにしても、今回の国葬は、発表から2か月以上も後に実施するものですから、国会で審議できない理由など全くありません。
  現に、野党の一部は、憲法に基づいて国会召集を求めていたのに、現総理大臣はこれを無視して国会を開かず、予備費で切り抜けようとしているのです。
  このようなやり方が、財政民主主義に反することは明らかです。

7 以上のとおり、安倍氏の国葬については、憲法違反が多数あります。
  今からでも遅くはありません。
  非を認めるに遅いということはないので、憲法違反の国葬をゆめゆめ実施することのないよう求めるものです。

(2022.9.9)