衛生対策
先般、愛媛県の刑務所から、刑期を半年ほど残した受刑者が脱走した事件が大ニュースとなり、その後23日間、受刑者がなかなか発見されなかったことで、警察だけでなく地元消防団などの捜索活動も報じられ、地元の方たちの不安も報道されて、社会的に大問題となりました。
そして、今回受刑者が脱走した刑務所が、塀のない刑務所とも呼ばれる比較的監視・拘束の度合いの低い開放的施設だったことから、こうした塀のない刑務所と矯正処遇のあり方を巡って、現在も議論が活発になされているようです。
ところで、今日の読売新聞のインターネットニュースで見たのですが、今回脱走事件が起きた刑務所を含め、「塀のない刑務所」と呼ばれる全国4か所の開放的施設では、出所後に再び罪を犯して刑務所に戻った受刑者の割合を示す「再入率」が、全国の刑務所などの再入率を大きく下回っていること、そのため再犯防止効果が高いことが法務省から発表されたとのことでした。そうだとすると、塀のない刑務所は、いったんは過ちを犯した人が、再び過ちを犯さずに、社会内で生活していけるようにするために重要な意義を持っているのだと思います。
現に、塀のない刑務所は、いずれ訪れる社会復帰のために、できるだけ開放的で、かつ、現実の社会に近い環境で、模範囚とされる受刑者が出所後の生活の準備を自覚をもって始められるようにするためのものとされているようです。そして、今回脱走した受刑者は、まさに残り刑期も短く、今後の社会復帰に向けた準備の途上だったと思われます。
そうした中で起きた脱走事件でしたので、矯正処遇に携わっている関係者の方々にとっては本当に残念な事件だったのだろうと思います。他方で、地元の方たちをはじめ、一般の人にとっては、刑務所が簡単に脱走できるようなものでいいのかという疑念は当然のことでしょうし、ごく自然な感情だと思います。
そういう意味で、今後あるべき矯正処遇のあり方が、脚光を浴び、議論を呼ぶのも自然な流れだと思います。
ただ、理想と信念をもって矯正処遇に当たっている方々の努力と、実際にも再入率が低いという実績を見れば、塀のない刑務所を縮小する方向にならなければいいがと案じています。再び脱走事件が起きることのないようにしなければならないことはもちろんですが、現在の開放的施設の有用性と効果は、できればもっともっと伸ばしていってほしいからです。
今回脱走した受刑者は、残りの刑期に加えて、逃走罪や逃走中に犯したかもしれない窃盗罪などの刑が加わって、さらに長期間刑務所での生活を余儀なくされるのかもしれません。それは、本人がしてしまったことですから、仕方ないと言えばそれまでなのですが、どうしてあと半年が我慢できなかったのかという疑問を拭えませんし、それが報道されているとおり本当に人間関係によるものなのだとしたら、刑務所内での人間関係のあり方や不満・ストレスを解消するための方策も検討が必要かもしれません。現に、弁護士会に宛てた受刑者からの人権救済の申立ては、その言い分の当否はともかく、後を絶たないのが現状ですから。
いずれにしても、今回の件は、普段あまり考えない刑務所のこと、矯正処遇のあり方を、社会全体で考えるいい機会にしていく必要があると思います。
(2018.5.8)