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No. 17 ~法律用語と日常用語~
今日は法律用語と日常用語の微妙な違いを考えてみたいと思います。
1 まず、最近、国会に関心が高まっていましたので、国会の用語についてです。
新聞等では、通常国会という言い方がよくされていますが、正確には、というよりも憲法上は、「常会」といいます。また、臨時国会と呼ばれるものは、憲法では「臨時会」であり、内閣が必要に応じて招集するものです。さらに、特別国会と呼ばれるものもありますが、これは、憲法上は「特別会」であり、衆議院が解散され、総選挙が実施された後30日以内に招集・開催されるもののことです。
次に、「総選挙」という言葉についても、最近ではアイドルグループの人気投票などに使われ、ある意味メジャーな言葉になりつつありますが、憲法上は衆議院議員の選挙のことを指します。これに対して、参議院議員の選挙は「通常選挙」(なお、通常選挙については憲法上の用語ではなく、公職選挙法上の用語です。)といいます。また、地方自治体の主張や地方議員の選挙については、単に「選挙」と言います。それでは、なぜ衆議院議員の選挙だけが総選挙と呼ばれ、参議院議員の選挙は通常選挙と呼ばれるのか、その理由は、衆議院議員と参議院議員の任期や改選方法に違いがあるからです。衆議院議員の任期は4年であり、任期満了または解散により、全ての衆議院議員が一度に議員の身分を失います。ですから、衆議院議員の選挙は、全議員を選び直す、まさに「総選挙」なのです。これに対して、参議院議員の任期は6年であり、3年ごとに半分ずつ任期が満了して議員の身分を失い、選挙をします。ですから、「総選挙」ではなく、半数ずつを、しかも、解散がありませんから、必ず3年ごとに定例の選挙で選び直すという意味で「通常選挙」という呼び方にされているのだと思います。なお、地方議会議員の選挙も衆議院議員の選挙と同じように全員を一度に選び直しますので、総選挙と呼んでもよさそうですが、憲法はあえて衆議院議員の選挙だけを総選挙と呼んで、他の選挙とは区別しているということになります。
次に、用語の問題ではありませんが、内閣総理大臣やその他の閣僚が国会に出席し、法案について説明したり、答弁している姿をよく見かけると思います。その根拠をご存知でしょうか?まず、議院内閣制の下、総理大臣はもちろん国会議員(基本的には衆議院議員)の中から選出されますが、閣僚の多くも国会議員です(憲法上、国務大臣の過半数は国会議員であることが必要です。)。ですから、国会議員の身分を有する閣僚たちが、それぞれ、自らの所属する議院(衆議院または参議院)に出席する権利義務を有することは当然とは言えるのですが、立法府ではなく行政府である内閣の一員として、しかも、自らが所属していない議院にも出席し、説明したり、答弁したりする根拠
は、国会議員の身分とは本質的に関係ありません。だからこそ、国会議員ではない閣僚も、国会で説明したり、答弁を求められたりするのです。それではその根拠は何かというと、憲法63条に定められています。「内閣総理大臣その他の国務大臣は、両議院の一に議席を有すると有しないとにかかはらず、何時でも議案について発言するため議院に出席することができる。又、答弁又は説明のため出席を求められたときは、出席しなければならない。」と定められているのです。ですから、閣僚は、国会議員であろうとなかろうと国会に出席する権限がありますし、逆に、義務でもあります。内閣総理大臣などが、自分の所属していない議院からの求めであっても、出席要求や答弁を拒むことは許されないのです。
2 次に、日常よく使われている言葉に「容疑者」という言葉がありますが、これは、刑事訴訟法では「被疑者」と呼ばれます。
また、逮捕拘留という表記もときどき見かけますが、これは逮捕勾留の誤りです。拘留というのは、刑罰の一種であり、逮捕されたからといって、有罪無罪を決するための裁判も経ないまま拘留されることはありません。これに対して、勾留は逮捕後、最長72時間以内に採られる手続きのことであり、被疑者の身柄を確保して逃走を防止し、また、罪証隠滅を防止するための裁判の一種です。裁判の一種ですから、裁判官が発する勾留状という礼状に基づき執行されます。なお、逮捕も裁判の一種であり、裁判官の発する逮捕状という礼状によって執行されますが、逮捕後、勾留の裁判がなされるまでの最長でも72時間、警察署の留置施設などに留め置かれる状態のことを「留置」あるいは「逮捕後留置」といいます。
ほかにも、日常用語と微妙に異なる法律用語は多々ありますが、それらについては、また別の機会にお話ししたいと思います。 (2015.10.1)