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1 前回のブログでは、検事総長や検事長などの定年について内閣の判断で延長できることを定めた検察庁法改正案の問題点やある検事長の定年を内閣の判断で特例的に延長している現状の問題点についてお話ししました。
この問題については、検察庁法改正案はひとまず今国会では採決見送り(継続審議)となり、また、上記の検事長はコロナ禍での自粛要請期間中に新聞記者らと賭けマージャンをしたということで辞任することになり、大変奇妙な決着をすることになりました。
2 もっとも、上記の検察庁法改正案については政府・与党は秋の臨時国会で再度審議するという構えを崩していませんし、上記検事長の閣議決定による特例的な定年延長が法解釈の枠を超える違法なものであることや民主主義の原理に悖るものであるという問題点も解決しないままの状態です。
従って、私としては、これで一件落着というわけにはいかないと思っています。
前回お話ししたとおり、準司法官である検察官の独立性確保のためには、今回の検察庁法改正案のうち内閣の判断で特例的な定年延長を認める部分は削除される必要がありますし、法改正も経ないまま従来の法解釈の変更という、いわば屁理屈で、特定の検事長の定年を閣議決定だけで延長したことについては独裁に匹敵するものとして、違法性を確認しておく必要があります。
そうでなければ、日本が内閣の独裁を容認した先例として、今後も禍根を残すことになるからです。
3 他方で、検察制度について、改善の必要性も忘れてはいけません。
検察官の独立は確保しつつ、起訴独占主義の下で強大な権力を与えられた検察官の権力行使(捜査権及び公訴提起権)が独善的にならないように(濫用されないように)監視するシステムを強化する必要性は高いといえます。
既に記憶が薄れかけている方も多いかもしれませんが、大阪地検特捜部の検事による証拠改ざん事件などの例を見ても、強大な権力を持った検察官が独善に陥り、捜査権や公訴提起権などの権力を濫用すれば、特定の人を容易に犯罪者に仕立て上げることさえ可能です。
必ずしも故意による職務犯罪とまではいえないような場面であっても、検察官の不適切な権力行使によって一人の人に汚名を着せ、社会的に抹殺することさえ可能なのです。
その意味で、検察官には強大な権力が与えられていることを前提として、その権力行使または不行使の是非を常に監視するシステムが必要です。
4 ところで、検察官の権力行使を監視するシステムとしては、現状では、裁判所及び弁護士によるチェックがあります。
検察官が捜索差押や被疑者(容疑者)の逮捕をするためには必ず裁判官の発する令状に基づかなければなりません。
また、検察官が特定の事件を公訴提起(起訴)すれば、その公訴提起がそもそも妥当であるか(不公正な起訴となっていないか)、有罪とするだけの証拠があるか、証拠を得るために実際に行った捜査活動が適正であったか、などが刑事裁判で問題となります。
当然ながら、弁護士(弁護人)は、上記諸点について問題点を検討し、検察官の権力行使に違法不当な点があればその点を指摘するよう努めることになります。
そして、最終的には裁判所が、検察官の公訴提起が妥当であったか、有罪とするだけの証拠があるか、その証拠収集活動に違法性はないかなどを吟味して、判決を下すことになります。
このように、検察官の権力行使(捜査及び公訴提起双方)について、一応の監視システムはあるのですが、実際に検察官が持っている強大な権力に照らせば、そうした監視システムはまだまだ脆弱といえます。
5 他方で、検察官の権力不行使(捜査しない、起訴しない)については、検察審査会という制度があります。
これは、無作為で選ばれた市民によって構成される検察審査会が、被害者などからの申立てに基づき、検察官の不起訴処分の当否を判断し、不適切と判断すれば、「起訴相当」、「不起訴不相当」という判断をする機関です。いわば、検察官の権力不行使に対する民主的コントロールといえます。
そして、検察審査会の「起訴相当」という判断にはある意味、拘束力があり、場合によっては強制起訴となり、検察官が起訴しなくても、裁判所から選ばれた弁護士(指定弁護士)が公訴提起して、検察官役として刑事裁判を遂行することもあります。
このように、検察官の権力不行使についても、一応の監視システムがありますが、検察審査会の権限とか、強制起訴となった場合でも指定弁護士の体制や予算など、やはり脆弱な面があることは否めません。
6 以上のように、検察官の権力行使に濫用がないか否かは刑事裁判を通じて監視され、検察官の権力不行使に濫用がないか否かは検察審査会の審査を通じて監視される仕組みがあるのですが、いずれにしても、まだまだ不十分であることは否めません。
なぜなら、検察官は、組織は違うとはいえ、時には警察も指揮して捜査を行う強大な権限と予算があるのに対して、弁護士は基本的には自営業(自由業)ですから、証拠収集を行うための人員も確保できませんし、そのような予算もありません。
いわゆる「人、物、金」の点で、検察官と弁護士とでは圧倒的な差が存在するのです。
それゆえ、弁護士が刑事裁判を通じて検察官の権力行使をチェックするためには、検察官や警察が捜査権に基づき収集した証拠や資料は、仮にそれが検察官にとって不利な証拠であっても、全て開示される必要があります(証拠開示の拡充)。
同じく、検察審査会が検察官の権力不行使をチェックするためには、全ての証拠や資料の開示に加えて、検察審査会の審査を補助するための専門家(弁護士)の常置とそのための予算措置、強制起訴となった場合の指定弁護士の権限の拡大(検察庁や警察に対する捜査指揮権の付与)や予算措置など、様々な方策が不可欠です。
7 準司法官である検察官の独立性・中立性が、場合によっては取り締まられる側となりうる政治家や内閣によって脅かされるようなことがあっては、絶対にいけません。
しかし、他方で、強大な権限・権力を与えられた検察官が独善に陥ったり、権力を濫用することのないように、検察官の権力行使・不行使について、その妥当性を常に監視するシステムを強化することも不可欠です。
そして、その方法は、政治家による介入ではなく、刑事裁判手続きを通じた監視と検察審査会による民主的コントロールの強化で実現すべきだと思うのです。
(2020.5.21)